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2004.03.17
散歩 de 探訪 -街・たてもの 歩いて見える新発見- 「東京湾アクアライン・海ほたる」

vol.24 日本唯一の海上パーキングエリア「東京湾アクアライン・海ほたる」
千葉県木更津市中島地先海ほたる TEL:0438-41-7401
路線バス:川崎駅行、木更津駅東口行にて海ほたるバス停下車
通行料金:3,000円(普通車片道通行または海ほたるパーキングエリアでのUターン通行)
http://www.jhnet.go.jp/aqua-line/

助手: はかせ、何かと話題になった「海ほたる」ですけど、じつはワタシ、今回が初めてなんです!
博士: うそ!?行ったことないの?
助手: だって料金高いって聞くし、木更津まで行く予定あまりないしで・・。いや、一度は行ってみたいなと思ってたんですけどね。
博士: 誤解だらけだねー。もちろん日本道路公団の有料道路としては、やや高めの料金設定じゃが、海ほたるでUターンして帰ってくることもできるんだぞ!何より、東京湾アクアライン(※1)を通って海ほたるを見ておくことは、日本の建築学史を知る上で大変重要なことである!
助手: っちょっと、熱弁はわかりましたから、しっかりハンドルにぎって下さい!おお、はかせ、トンネルの入口が出てきましたよ。
博士: アクアトンネルの入口じゃ!このアクアトンネル入口(浮島取付部)から海ほたるまで約10キロ!最も深いところで海面下60メートルもあるんじゃ。
助手: アクアラインってトンネルだったんですか!?てっきり橋の上走ってくのかと思ってましたよ。
博士: アクアラインの3分の2は海底トンネルである。海ほたるから木更津までの約5キロがアクアブリッジと呼ばれる橋梁で結ばれているんじゃ。
助手: 何故すべて橋梁にしなかったんでしょうね?そっちの方がコスト的にも安くなるでしょうにね。
博士: きみぃ、一日あたりどのくらいの船舶が東京湾を行き来してるか知ってる?約1,400だよ。そのなかには石油や重油を積載している大型船舶もあるじゃろ。そうなると橋梁の下をくぐるのは困難。だから比較的水深が深い川崎側をトンネルにしたんじゃ。
助手: へー、やっぱりー!そうだったんですね。
博士: 「やっぱりー!」って・・あのねぇ、ちゃんと考えて質問したの?
助手: もちろん、だいたい予想はしてたんですよ・・。はかせ、出口が見えてきましたよ!いよいよ海ほたるですね!
博士: おおぅ、眩しい。見よ、このパノラマ!360°海の上、これぞ日本唯一の海上パーキングエリア「海ほたる(※2)」じゃ〜!
助手: そうか、当たり前の話ですけど、ここはパーキングエリアなんですよね。何だか大きな船の上にいるみたいな気分になりますね。
博士: この人工島の全長は約1,400メートルもあるが、約750メートルはトンネルへと続く斜路部で残りの650メートルが海上の平坦部なんじゃ。1Fから3Fまでが駐車スペース、4Fと5Fがレストランや土産物売り場になっておる。
助手: さて、どこからまわりますか?さっき「海ほたる丼」ってのぼりが立ってましたよ。ちょっと気になりません?
博士: ダメ!まずはアクアラインの技術を知るためにも木更津方面突端にある技術資料館「うみめがね」を見学じゃ!
助手: はかせ、実に興味深い資料ばかりですね。横断道路の建設過程が手に取るように判るじゃないですか。縮尺模型もかなりリアルですし。アクアトンネル施工(※3)の苦労がよくわかりますね。高速道路としての安全性、快適性、高速性を確保するため、道路の下に機械・電気・通信設備の共同溝が設置されていたんですね。
博士: ところで、海底をガンガン掘り進んだ機械がどんな物だったか想像つく?
助手: いえ、まったく。サンダーバードに出てくるモグラみたいなマシンで掘ったとか?
博士: 惜しい・・・っワケない!高水圧で軟弱地盤の条件下で安定と止水を確保するために、密閉型シールドマシン(※4)を使用したんじゃ!口径が14.14メートルもある円筒状の先端に取り付けられた刃が回転しながら、高圧の泥水を使用して土を削り取る!
助手: 何だかピンときませんが、とにかくすごいマシンなんでしょうね。
博士: 実際に使用されたシールドマシンの先端部、カッターフェイス見てみる?東京側の突端にモニュメントとして展示されておるぞ!
助手: それ、最初から言ってくださいよ!見てみたいッス。
博士: さすがに端から端までは距離があるな〜。あそこ、あのデッカい半円のがカッターフェイス。先行っててくれる?
助手: 情けないな〜、軽く息上がっちゃってるし。じゃ、お先にー!
博士: ひー、到着!どおじゃ、すごいだろ?実際に掘り進んできた実物だぞ!泥水式としては世界最大級じゃ。
助手: デカいですねー。これが海底をごりごり掘って進んだんですね。表面に付いてるクマの手のような物は何ですか?
博士: それは超合金の爪じゃ!この爪が岩盤を削り進んだ。だからよく見てみると、所々摩耗しているのがわかるじゃろ?
助手: まじっすか、これ超合金!?むかしボク持ってましたよ、超合金ロボ。懐かしいなぁ〜。
博士: それとは、強度がだいぶ違うんだけど・・。ま、これら8基のシールドマシンが浮島、風の塔(浮島と海ほたるの中間に位置するトンネル部分の換気施設)と海ほたるの各人工島から発進し、それぞれの区間の中央付近まで掘り進み、海底の地盤の中で接合。こうして全長9.5キロの2本のトンネルを完成させたんじゃ。
助手: なるほど。その役目を終え、いま、こうして立派に保存されているのが嬉しいですね。さて、展望デッキに上がって見ましょうよ、ちょっと風強いですが。
博士: 東京湾一望しちゃうか?今度はエスカレーターで5Fまでらくらく行ける!
助手: いい眺めですね!横浜の港がうっすら見えますね、こっちは房総の山々。飛行機が頭の上を行き交い・・、ロマンチックなデートスポットにいいじゃないですか。夜景もさぞかしキレイでしょうね。
博士: そういえば、海ほたるにも江の島の「龍恋の鐘」ならぬ、幸せの鐘があるんじゃ。その想いは音の波にのって・・・みたいなのが。
助手: いいぢゃないですかー、鳴らしましょうよ、想いの鐘!
博士: ・・・おい、先客のカップルがおるぞ。
助手: ボクら、また男同士ですよね・・・。このシチュエーションにだんだん慣れてきてしまっている自分がイヤですね。
博士: コラッ!ワシだって辟易しておるんじゃ、ほんとは若くてカワイイ助手が一緒だったなら・・。
助手: 言いましたね!くそ、はかせに絶対、恋人ができませんよーに!(カランカラン♪)
博士: おいおい、神社やお寺の鐘じゃないっつーの!!

博士の気のない一言に助手がマジぎれしてしまったところで、今回はおしまい。次回もお楽しみに。

今週の建材

岩盤を削り取る爪・超合金
岩盤を削り取る爪・超合金 ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン等を含む合金で、削岩機のロッドやインサートビットなどに使用される。アクアトンネルの掘進機用カッターでは、地盤を削る爪にこの超合金が使用された。一般的に超硬チップと呼ばれるもので、炭化タングステン粉末とコバルト粉末を混合して圧縮・成形し、最後に焼結して製造。非常に硬いのが特徴で、一般構造用圧延鋼材(ss400)に比較して5倍程度の硬さがある。


無駄demo知識

○トンネル掘進で活躍したカッタービットは、岡山県久米郡久米南町にある「スターロイ(STARLOY)」社で開発・製造された。ドーバー海峡の海底でフランスとイギリスを結ぶユーロ・トンネルを掘削したシールドマシンのカッタービットも同社がつくったもの。
○海ほたるは近海に生息する体長約3ミリの二枚貝状の殻を持った甲殻類の節足動物で、南房総の館山湾に多く生息している。外部からの刺激を受けると、体内から分泌される発光物質を海中に放出させ、青色に発光する。
○海ほたるへは川崎・木更津の両方面より路線バスが運行している。平日の8時台から17時台までの間に約15本が行き来している。曜日により出発到着時刻は異なる。バスで来る際には、とくに最終便には気を付けたい。



補足de知識

※1 東京湾アクアライン

東京湾の中央部を横断する、延長約15.1キロの有料道路。平成9年(1997)12月に開通。川崎側から約10キロがシールドトンネル、木更津側から約5キロが橋梁で、トンネルと橋梁の接続部に人工島(海ほたる)を設置した。約1,400隻の船舶が行き来する川崎側では、船舶航行上の支障となる懸念からシールドトンネル工法を採用。一方、浅瀬が広がる木更津付近は、大型船舶の航行も少ないことから、経済的な橋梁構造となった。道路は片側2車線の合計4車線で、海底部ではトンネルを2本建設しましたが、将来の交通量の増大に備えて、人工島や橋梁は拡幅可能な構造を採用している。民間企業と地方自治体、日本道路公団が出資した第三セクター「東京湾横断道路株式会社」が建設と管理の委託を受けもつ。完成後は道路公団に引き渡し管理を受託した。

左:アクアトンネル入口。ここから約10キロで海ほたる
中:海ほたるより木更津側方面。ここから先は橋梁部
右:日本唯一の海上パーキング海ほたる。ここでUターンも可能

※2 海ほたる

木更津の沖合約5キロの海上に位置し、道路がトンネルから橋に移り変わるために造られた人工島。規模は幅が約100メートル、長さ約1,400メートル(海上平坦部が約650、斜路部が約750メートル)。この人工島は、シールドトンネルが海底部に達するまでの斜路盛土部、シールドマシンの発進基地となる立坑、陸上施設が立地する平坦部盛土から構成されている。日本では唯一の海上パーキングエリアで、1F〜3Fまで480台を収容可能。4Fはショッピングやアミューズメント施設、5Fはレストラン街など休憩施設が整っている。また、パノラマデッキでは東京湾周辺の風景を360°展望できる。

左:船のマストを模した!?屋根部。夜は幻想的に青くライトアップされる
中:技術資料館「うみめがね」は入場無料(9:00-17:00)
右:1Fから5Fまでエレベーターが続く、ドーム型の屋根

※3 アクアトンネル

最大海面下約60メートルの海底を両側から掘り進んで地中接合させた延長約10キロの世界最大の道路シールドトンネル。トンネルの建設は、高水圧で軟弱地盤という条件下で切羽の安定と止水を確保するために、密閉型シールドマシンを使用した。上下線2本のトンネルは、工期短縮等の目的に沿い、浮島取付部・風の塔・海ほたるの3ヶ所の立坑から、口径14.14メートルの円筒状の巨大シールドマシン8基で掘進し、立坑間のほぼ中央で地中接合させた。先端に取り付けられた超合金の刃が回転しながら高圧の泥水を使用し、崩れないよう押さえられた土を削り取る。泥水となった土はポンプにより排出し、マシン後方では1.5メートル進むごとにセグメントをリング状に組み立てトンネル壁を構築した。

左:アクアトンネルの断面模型(うみめがね内)
右:トンネル壁部セグメントの様子がうかがえる模型(うみめがね内)

※4 シールドマシン

東京湾アクアラインのトンネル掘進には6気圧にも及ぶ高水圧、ヘドロによる軟弱地盤中の長距離掘進という条件下で切刃の安定と止水を確保するため、直径14.14メートル重量3,200トンの円筒状密閉型大口径シールドマシンを使用した。泥水式としては世界最大級。カッターフェイスに取り付けられているカッタービット(超合金で作られた爪)には、それぞれ掘削する部分の役割と機能に応じ、標準カッター・センターカッター・コピーカッター・コアリングカッター・最外周カッター・補助カッター・先行カッターがある。

左:直径14.14メートルの巨大なカッターフェイス
中:カッターフェイスの詳しい構造が記された記念碑
右:超合金の刃は、いたるところ摩耗している


今週の「ツウ」快ふしぎ発見!

今週の「ツウ」快ふしぎ発見!
海ほたる4Fのアミューズメント施設前には、小さな郵便ポストが設置されている。一日に一回郵便局員が投函物を取りに来る。そこまでは何ら変わらない。しかし、ポスト横に木更津郵便局より注意書きが。曰く「アクアラインが通行止となった場合、収集を行いませんのであらかじめご了承願います」。


散歩de探訪録

≫vol.01 横浜・赤レンガ倉庫
≫vol.02 お台場・ビーナスフォート
≫vol.03 鎌倉・円覚寺
≫vol.04 多摩・コカ・コーラ多摩工場
≫vol.05 国会議事堂
≫vol.06 会津・大内宿
≫vol.07 黒部ダム
≫vol.08 草津温泉郷
≫vol.09 ベイブリッジ
≫vol.10 小江戸・川越
≫vol.11 浜離宮恩賜庭園
≫vol.12 東京大学
≫vol.13 東京駅
≫vol.14 銀座
≫vol.15 等々力
≫vol.16 江の島
≫vol.17 横浜中華街
≫vol.18 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その1
≫vol.19 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その2
≫vol.20 幕張ベイタウン
≫vol.21 横浜ベイサイドマリーナ
≫vol.22 浅草・仲見世通り
≫vol.23 東京都庁
≫vol.24 東京湾アクアライン・海ほたる
≫vol.25 横浜港大さん橋国際旅客ターミナル
≫vol.26 総集編 長い散歩のあとに・はかせインタビュー



ライタープロフィール

◎アドバイザー:《羅針盤》
HP ⇒http://www.geocities.jp/dm97032/works/top.htm
建築家の異色ユニット。
自らの事務所を持ち、建築家として建物のプランニング・設計する側ら、オリジナル家具・インテリア小物や雑貨などのデザイン制作を担当するなど幅広く活動中。「明日の生活を建築・インテリアで改革」と豪語(笑)する、自然愛好家たち。
◎文:平野星良(ひらのせいら)