じっくり煮込んだコトコトコラム:水曜日 <Atelier Blue トップへ
2004.03.24
散歩 de 探訪 -街・たてもの 歩いて見える新発見- 「横浜港大さん橋国際旅客ターミナル」

vol.25 日本の海の玄関口「横浜港大さん橋国際旅客ターミナル」
みなとみらい線日本大通り駅下車徒歩5分
横浜市営地下鉄JR関内駅下車徒歩15分
横浜市中区海岸通1-1-4
TEL:045-211-2307(大さん橋客船ターミナル事務所)

博士: 「波止場しぐれが降る夜は〜 雨のむこうに故郷が見える〜♪」っと。
助手: はかせ〜、シチュエーションが古いですよ。なにいぶかしそーな目して水平線見つめてんですか!
博士: やっぱ埠頭に来たら演歌だわ。さゆり姉さんサイコー!!!
助手: お願いだからそのテンションちょっと下げてもらえませんか。その気合いを今日の調査に生かしてくださいよ!
博士: そうカリカリするでない。よし、では行ってみよー!日本の海の玄関口、大さん橋国際旅客ターミナル(※1)じゃ!
助手: この旅客ターミナル、建築とか建物と聞いて思い浮かぶ空間に対するイメージや概念が完全に吹っ飛ばされますよね。非常にシンプルな造りなのに、自分がいま、何階の層にいるのかさっぱり判らなくなる気がしますよ。
博士: この建物は桟橋にありがちな直線的な構造や強い方向性を持つ動線が排除され、各エリアをつなぐ線のループが重視されているんだ。つまり桟橋状にカタチをデザインするのではなく、「都市の地表面の延長としての空間」と言えよう。
助手: なーるほど・・。ところではかせ、いまボクらは何階にいるんですか?
博士: ここは出入国ロビーのある2階じゃ。あそこから先が税関だぞ、船旅の第一歩はあそこから始まるんじゃな。
助手: ね、ね、はかせ、この空間そーいえば、まったく柱がありませんよね。屋根を支える支柱が存在しないなんて・・。どうやって支えているんでしょうか?
博士: いい質問だ!その答えは屋根部の屋上広場(※2)に上がって説明するとしよう。そのスロープを上がっていくぞ。
助手: おお、眩しいー、気持ちー。そして、どデカいっすねー!!これが屋上広場っすね。すごい!一面ウッドデッキ張りじゃないですか!?
博士: どうじゃ、船のデッキを思わせるこの木材はブラジル産のイペという木を使用しているんじゃ。この木材、ターミナルの上面、下面、内外部にかかわらずほとんど単一的に使用されている。それに巧いこと面でカットされてるじゃろ。つまりこの多面の連続で建物の屋根の丸みを形づくっているのだよ。
助手: 美しいシェイプですよねー。これが埠頭のターミナルだなんて、屋上にいただけでは判りませんよね。でも、これが内部の支柱のないことと、どう関係があるんですか?
博士: おお、そうじゃった。屋根の異なった面が屋根部全体の荷重を、それ自身に沿って斜め方向に地面へと伝えているというワケ。これは日本固有の地震力といった横方向の力に有効なんじゃよ。
助手: なるほど、それで柱がなくても建物自体を支えることが可能なわけですね。それにしても、この建物には階段がほとんどないですね。緩やかなスロープを上ったり降りたり、屋上にいるのかと思えば室内のロビーにたどり着いたりと、なんだか迷路のようで境界があいまいですね。
博士: 空間のつながり方が一見、複雑そうに感じられるんだけど、スロープの上り降りは自然にできるんだ。埠頭の先端まで続く屋上床のうねりも、繊細な地形の変化だけで十分魅力ある空間を造り出しているだろ。
助手: 確かに!建物が建っているというよりも、新しい地形が突如現れたような感覚なんですよね。ところで、この斬新なスタイルを設計したのって、一体誰なんですか?
博士: イギリス在住の建築家アレハンドロ・ザエラ・ポロ、ファルシド・ムサビのふたり。
助手: ほー、そうですか・・・。 ・・・で、誰です、そのふたり?
博士: まあ、無理もないリアクションだよ。じつは、このターミナルは1994〜95(平成6〜7)年に行われた、一般公募の国際デザインコンペ(※3)によって設計者が選ばれたんじゃ。そのコンペで最優秀になったのが、このふたり。彼らはこれまで、日本ではほとんど無名の存在だったわけだから、まさに「ジャパニーズ・ドリーム」を手にしたと言えよう。
助手: はかせ、これですよ!ボクらもこのふたりを見習って、一発当てなきゃ!「ジャパニーズ・ドリーム」・・いい響きじゃないっすか〜。
博士: そう、若者よ、その意気じゃ!ってことで、ランチしたくない?
助手: したいっす!
博士: 豪華客船「ロイヤルウイング」でランチクルーズってのがあるんだけど。
助手: サイコーじゃないっすか!ブルジョワ気分でランチっ!優雅〜!!
博士: ちょとトイレ行くから、先に席とっといてくれ。
助手: 出航しちゃうから早くしてくださいね。
博士: のわ〜っ!!いかん、船出の合図だ!ひぃ〜、待ってくれぃ!っと、と、ギリギリセーフ。
助手: はかせ、遅い・・。
「ボー!(汽笛)」
助手: いやぁ、反対側もでかい船だな。ドイツ客船「ドイッチェランド」ですかー。優雅に船旅いいですね、はかせ・・。っておい!!あっちの船のデッキにいるの、ひょっとしてはかせ!?
博士: 「・・・・・!(叫び?そして泣き顔?)」
助手: どこ行く気ですか!アンタは〜!?

博士が間違えて乗ってしまった船がなんと、ドイツ行きの客船だった!!な、ところで今回もおしまい。そして、博士と助手の珍道中も今回が最終回!?ながい間ご拝読頂きありがとうございました。あ、でも次回総集編があるんで、お楽しみに!

今週の建材

潮風にも負けないステンレス
潮風にも負けないステンレス ニッケル、クロムを含み炭素量の少ない耐食性の極めて大きい特殊鋼。一般にクロムの量が約13%以上で、クロムの量が増加するほど耐食性、耐熱性がよくなり、さらにニッケルによって機械的性質が改善される。「不銹鋼(ふしゅうこう)」とも呼ばれる。空気中や水中において錆びにくい特性を持った鋼のため、旅客ターミナルの屋上広場周辺の手すりに使用されている。


無駄demo知識

○「あすか」、「にっぽん丸」、「ぱしふぃっくびぃなす」など、3万トンクラスの客船なら4隻、また、「クイーン・エリザベス2世」など7万トンクラスの豪華客船なら2隻の同時着岸が可能。
○1881(明治14)年3月、ハワイ王国よりカラカウア王が寄港。国賓として明治天皇より手厚く迎えられた。1932(昭和7)年6月、来日していた映画監督・俳優チャップリンは、大さん橋より貨客船「氷川丸」にてアメリカへ帰国した。
○関東大震災で桟橋部が挫折、陥没するなどの被害が出た大さん橋で、当時接岸中のイギリス客船「エンブレス・オブ・オーストラリア」とフランス貨客船「アンドレ・ルボン」は、被災した市民5千人の救助にあたった。



補足de知識

※1 大さん橋国際旅客ターミナル

1894(明治27)年の完成以来、横浜の大さん橋埠頭は日本の海の玄関口として活躍してきた。1989(平成元)年より再整備が着手され2002(平成14)年、21世紀のクルーズ需要に応えたターミナルとして、また、市民利用施設をひとつの建物の中に納め、新しい大さん橋国際旅客ターミナルがオープンした。ターミナル内には階段が少なく、スロープやエレベータにより上下階に移動できるバリアフリー対応。地下1階地上2階建。最高高さ15メートル、建物の全長約430メートル、幅約70メートル。総床面積約44,000u(地下約2,000u、1階約20,000u、2階約22,000u)。

左:各階へはスロープを通じて行き来できる
中:広々とした出入国ロビー。ここから先は税関です
右:埠頭の突端にある「多目的ホール」

※2 屋上広場

ウッドデッキと芝生で構成された24時間開放の広場。野外イベント広場でのコンサートや、客船の入出港を間近に観ることができ、赤レンガ倉庫など港の景観を楽しむことができる。「船」を主役とするために建物の高さをできるだけ抑え、屋根面は波をイメージした緩い曲線を描いている。柔らかさ、ブラジル産イペ木材を一面に敷きつめ、心地よさを演出した。

左:室内のアーチ状の天井に沿って、多数の面で構成された屋上デッキ
中:屋上へとつづくスロープ。床も壁面もすべてがペナ木材
右:赤レンガ倉庫のむこうに、みなとみらい横浜を一望できる

※3 国際デザインコンペ

1994〜95(平成6〜7)年に行われた国際デザインコンペ(国際建築設計競技)では、ターミナルの新デザインに世界41カ国から660作品(国内336作品、海外324作品)の応募があった。これは国内で行われた国際コンペとしては過去最高のものとなった。最優秀作品には、イギリス在住の2名の建築家アレハンドロ・ザエラ・ポロ、ファルシド・ムサビ両氏の作品が選ばれ、この作品を基に整備が進められた。曲面を多用した個性的なデザインと柱のない大空間を構成する斬新な構造は、国内はもとより海外からも注目を集めている。

左:木、ガラス、鉄を主材料に構成されたターミナル
中:ガラス張りの出入国ロビーは、木漏れ日が気持ちいい
右:屋根を支える支柱がなく、空間をより広々と感じさせる


今週の「ツウ」快ふしぎ発見!

今週の「ツウ」快ふしぎ発見! 宙に浮いた未来的エレベーター!?
1F駐車場と2Fの出入国ロビーとをつなぐ3基のエレベーターは、いわゆるワイヤー昇降するのではなく油圧式により、エレベーター自体を持ち上げる設計。昇降階が少ない場合にはこのようなスタイルのエレベーターを設置することが多い。全面ガラス張りの様相は、中空を浮遊するような感覚がある。


散歩de探訪録

≫vol.01 横浜・赤レンガ倉庫
≫vol.02 お台場・ビーナスフォート
≫vol.03 鎌倉・円覚寺
≫vol.04 多摩・コカ・コーラ多摩工場
≫vol.05 国会議事堂
≫vol.06 会津・大内宿
≫vol.07 黒部ダム
≫vol.08 草津温泉郷
≫vol.09 ベイブリッジ
≫vol.10 小江戸・川越
≫vol.11 浜離宮恩賜庭園
≫vol.12 東京大学
≫vol.13 東京駅
≫vol.14 銀座
≫vol.15 等々力
≫vol.16 江の島
≫vol.17 横浜中華街
≫vol.18 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その1
≫vol.19 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その2
≫vol.20 幕張ベイタウン
≫vol.21 横浜ベイサイドマリーナ
≫vol.22 浅草・仲見世通り
≫vol.23 東京都庁
≫vol.24 東京湾アクアライン・海ほたる
≫vol.25 横浜港大さん橋国際旅客ターミナル
≫vol.26 総集編 長い散歩のあとに・はかせインタビュー



ライタープロフィール

◎アドバイザー:《羅針盤》
HP ⇒http://www.geocities.jp/dm97032/works/top.htm
建築家の異色ユニット。
自らの事務所を持ち、建築家として建物のプランニング・設計する側ら、オリジナル家具・インテリア小物や雑貨などのデザイン制作を担当するなど幅広く活動中。「明日の生活を建築・インテリアで改革」と豪語(笑)する、自然愛好家たち。
◎文:平野星良(ひらのせいら)